青森民医連看護委員会と看護・介護学会小委員会で、看護・介護現場の事例を集めました。
患者さん・利用者さん一人ひとりの生命(いのち)と健康、暮らしや思い=「人権」を守り、尊重しようという思いのもとに、日夜頑張っている医療・介護・福祉の現場スタッフ達の情熱。患者さん・利用者さんと心通わす交流… そのひとつひとつを「物語り」として、合わせて15篇(予定)を連載していきたいと思います。

※写真は看護実習風景から。本文とは直接、関係ありません。

看護と介護 15の物語 ①

きれいごとでは済まされない。生命を第一に考え行動する ~ある親子の生活から~

生協さくら病院(精神科/青森市)
地域連携室 看護師 最上 正一

人権とは、すべての人が生まれながらにしてもっている権利であり、人として生きるための普遍的なものである。国の最高法規である日本国憲法において「基本的人権の尊重」として謳われている。しかし自分らしく生きるという個人の人権を尊重すると命にかかわることもある。生命を第一優先しなければならない。

X親子は築数十年の古いアパートに2人暮らしだった。母(70代)、娘(30代)も単独子、父親は不明である。母は飲食店で働き、娘を高校卒業させた。卒業後、娘は働かず家にいた。生活歴は不明である。数年前より母の様子に変化があり、アパートの周りや外で排泄をしたり、様々な奇異行動があり、警察、保健所が介入するが解決せずにいた。生活保護を受給しており、福祉課職員は安否確認するのみであった。様々な民家の風除室に忍び込んだりなどエピソードを繰り返し、地域住民からの苦情、大家も手をこまねいていた。

警察、大家より、地域包括センターとMSWへ相談があり、訪問行動を続けていた。栄養状態もままならない状況であった。MSWより医師に相談し往診することになる。生協さくら病院に協力を求める依頼があった。20XX年2月、雪降りしきる日で、包括主体で医師と生協さくら病院職員4名でX親子のアパートに向かう。到着するとすでに、市の生活福祉課担当職員、高齢福祉課担当者もおり、医師の診察が行われた。

アパートの中の状況は、暖房設備もなく、毛布1枚に親子それぞれくるまっている状況であった。衛生面も悪く、トイレを詰まらせたようであった。二人ともるい痩も著しく、かなりの低栄養状態に見受けられ、寝たままの状況が数日間続いていようだ。食事も冷蔵庫には魚肉ソーセージ数本しか入っていなかった。 医師より「入院が必要です」と伝えられ、抱きかかえれ病院車に乗って病院につながる。

このまま2人を放置しておくと生命の危機になるケースであった。母はすでに意思疎通ができず、意味不明のことを話し、娘は衰弱、引きこもりにより発語もない状況であった。精神科病院では精神保健福祉法に基づいて運営がなされている。

今回のケースでは移送・入院に制度上の障害があり、入院には娘は同意しているようであるが、はっきりした意思表示がとれないため状況的に医療保護入院となるが、家族がいないため市町村同意の医療保護入院となる。案の定、保健所より電話が入る。今回のケースはどういった状況で連れたきたのか、法律にのっとれば事情を聞かざるを得ないことも承知していた。

今回のケースは放置しておくと生命に関わる危機的状況であったと説明する。今回の行動に関しては様々な意見があるが、無事に入院となり生命の安全が確保された。

娘はみるみるうちに回復し会話もでき、任意入院となり、それなりに外出もでき、仲の良い患者と過ごしている。精神科実地指導の医師の診察の際に本人は病院から迎えに来て入院になった。あのまま毛布1枚の生活をしたらどうなっていたか、来てもらって助かったと話していた。病院PSW、Nsと相談しながら今後の生活を考えアパートを処分し、2年半の入院期間を経て、精神障害者アパートに退院することができ、現在はデイケア、訪問看護を受けながら生活を続けることになっている。今の生活を伺うと本人談「何とか慣れてきました。」と話す。

母は現在も入院中であり、拒薬傾向、意思疎通はとれないが、食事など自立している面もある。母の今後については娘の生活が落ち着いてから方向性が確認されると思う。

終わりに

今回のケースを通して地域には様々な事情で人々は生活している。その中で行政や病院につながる人はよいが、つながらないで孤独に生活している人は埋もれているだろうと感じた。昔堅気の人にかぎっては、人に迷惑かけたくない、人の世話になりたくないという思いの人も多い。年齢を重ねるにあたって、いつまでもしっかりしているわけでなく、突然の認知症、人格崩壊になった場合、家族がいない場合は親子で遭難してしまう。幸い生活福祉課、問題行動があったので露呈したが、静かに誰にも気づかれずに世を去る方もいるだろう。

私たち民医連職員は地域にいる弱者に何ができるか日々常に考えながら行動しなければならないと感じた。また、私たちは普段日常的に何事もなく生活しているときは感じないが、自分の安全を脅かされると人権意識を感じるのではないか。よく人権侵害、人権蹂躙など自分の安全を脅かされると聞く言葉である。

人として生きること、自分らしく生きる個人に任せると生命の危機に関わることもある。
生命を第一に考え、社会的人権侵害を引き起こさないように活動していきたいと考える。

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