笑顔を取り戻した発達遅滞のMさん

~不安が軽減され地域に定着した患者の支援を通して~

藤代健生病院(精神科/弘前市)
外来 看護スタッフ一同

初めての出会い

2014年5月の晴れた日、Mさんは兄夫婦や地域包括支援センターの職員と一緒に藤代健生病院に初めて来院されました。

藤代健生病院は、弘前の藤代地区の岩木川沿いにある岩木山を一望に見渡せる場所にあります。精神科単科の病院で、223床の入院ベッドを有し、平均150名の外来患者さんが、津軽地域はもちろん、秋田県北からも治療に訪れています。地域精神医療40年の歴史があります。

Mさんは70歳の女性で、知的障害者で気管支喘息や白内障を抱えていました。母屋に住んでいる兄夫婦と、離れにお母さんと2人で暮らしをしていました。お母さんが施設に入所することになり、時々お母さんとMさんの面倒をみていた妹さんがお世話をしていました。しかし、その妹さんが4年前に亡くなり、Mさんは、身近な存在が次々に突然いなくなった状況を理解することができずに、戸惑い、不安が強くなりました。その後、兄夫婦がお世話をすることになりました。ちょっとした変化に、興奮して叫び、暴力も見られるようになったMさんのお世話に困り果てた兄夫婦が、2013年に地域包括支援センターに相談をしました。拒否的だったMさんは、度重なる地域包括支援センターの介入により精神科病院の受診に同意され、ようやく受診に漕ぎ着けたようでした。

外来の診察場面では、Mさんは落ち着きなく動き回り、傍にいる人、誰かれ構わずに引っ掻き、唾を吐き、手に持っていたオニギリを投げつけ、奇声を上げ、家族や外来看護師も近付けようとはしませんでした。外来看護師が声をかけると、拳をあげて威嚇し、持参していた千円札を切裂き、全く言葉を発することはありませんでした。入院治療が必要と診断されて、即日、医療保護入院で、強制入院となりました。

入院から精神状態が落ち着くまで

入院をして一週間程は、ナースコールを押しっぱなしで、看護師に拳をあげては、興奮状態が続きました。その後、持病の気管支喘息も悪化し、毎日点滴処置が必要になりました。毎日、病棟看護師と関わるうちに、病棟環境にも慣れ、徐々に落ち着きを取り戻し、会話もできるようになりました。精神状態も安定されて、気管支喘息の症状も改善しました。その後は、粗暴行動もなくなり、売店で買い物をして、お菓子を待合室で食べている姿がよく見られました。

多職種によるチーム連携

主治医から兄夫婦へ病状説明について面談が行われ、落ち着いてきているため入院治療を終了し、退院の方向となりました。兄夫婦からは、自宅ではなく施設入所の希望が出されました。Mさんにも退院後は施設入所となることを兄夫婦から伝えられました。その後に、退院前カンファレンスが開催され、主治医・担当看護師・外来看護師・作業療法士・精神保健福祉士やケアマネージャーーによる多職種カンファレンスが開かれました。その結果、Mさんは理解力が乏しく、先々の予定を立てての行動は難しく、状況に敏感になる方なので、できるだけ、直前に施設見学予定を伝えることを確認し、退院後は有料老人ホーム入所を目指すことになりました。しかし、施設見学一件目は「行きたくない。施設に行くくらいなら死なねばまいね。」という発言が聞かれ、精神的にも不安定となり、一旦、施設見学は中止となりました。

数ヵ月経ったある日、「いつ退院できるんだ。」「家に帰りたい気持ちはあるが、兄嫁が自分を受け入れてくれないから、別のところに行く。アパートっぽい所で、買い物に出られる所を探して。」と、自らの思いを打ち明け、施設探しに対しての前向きな発言が聞かれました。お母さんの面会と施設見学を兼ねて、数ヶ所の施設見学を精神保健福祉士と担当看護師が同行して行いました。「分かっているけど、行きたくない。早く戻る。」と、施設入所に対しての葛藤が垣間見られました。数ヶ所施設見学し、Mさんの選択したS施設を兄夫婦も見学をして、入所を決定しました。サービス調整会議が開催され、主治医をはじめ病院職員とケアマネジャーや施設関係者、兄夫婦も出席して開かれ、施設入所後の福祉サービスとして、入浴と掃除に週二回ずつヘルパーを利用し、施設や環境に慣れるように外来で定期的に訪問看護を行うことにしました。

Mさんの施設入所決定後も、退院を拒否して主治医に泣きつく場面もありましたが、入院後、半年で退院となりました。退院当日は、担当看護師や精神保健福祉士も同行し、有料老人ホームに入所となりました。

施設の生活に慣れ地域に定着

有料老人ホームに入所して、外来看護師による訪問看護をスタートしました。訪問看護では、施設の環境に早くに馴染んでもらうことを目標に、生活環境での困りごとがないか確認しながら、相談に重点を置いて看護介入することにしました。

施設入所当初は、「何故、ここに入れたのさ。買い物するどこも近くさないし、実家の近くの施設に入りたかった。」「お風呂にゆっくり入れない。」と不満の声が聞かれ、泣く姿も見られました。でも、「ご飯は美味しい。」と食事は満足していた様子でした。訪問時には、Mさんの思いを傾聴し、要望に対しては施設スタッフに情報を入れながら対応をしていったところ、Mさんから訪問を待ちわびる声が聞かれるようになりました。笑顔で自ら生い立ちや昔の事を語り、徐々に施設での生活に馴染み、情緒不安定だったMさんも落ち着きを取り戻し、今は、Mさんの希望でラジオ体操を取り入れて、看護師と一緒に身体を動かしています。毎回、訪問終了時には「また、来いへ」「一緒に泊まっていきへ」と、人なつっこく声をかけては、玄関まで見送ってくれます。退院後に気管支喘息の悪化で一ヶ月程入院をされましたが、それ以外は、同施設での生活を継続しています。

初めての外来受診時に、威嚇して、興奮するMさんの姿はなく、自らの素直な思いを言語化し、会話できるようになった様子をみて、人なつっこい、笑顔の可愛い、お喋りが大好きな、本来のMさんに戻れたと嬉しくなります。今後も施設の環境に適応して地域生活を送っているMさんを支援していきます。

※写真は本文とは直接、関係ありません

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