救急搬送をきっかけに引きこもりから社会復帰できたAさんへのエール
~ 生きる力を取り戻すまで ~

藤代健生病院(精神科/弘前市) 1病棟 看護師一同

Aさんの入院まで

Aさんが救急搬送されたのは、寒い冬の早朝でした。髪も髭も伸びたまま、低体温状態で発見されたAさんは、引きこもり状態が続き、行政も対応を苦慮していた50代後半の男性でした。搬送先の病院から紹介され、藤代健生病院にやってきたAさんは1病棟に即日入院となりました。

藤代健生病院1病棟は、2013年4月より精神科急性期治療病棟として、さまざまな精神疾患の患者さんの入院を受け入れています。多職種と連携しながら短期間で地域生活へ戻ることを目指し、チームで取り組んでいる病棟です。

Aさんに結婚歴はなく、父親は死亡、母親は施設入所中で、次兄が唯一の家族でした。勤務していた会社も、体調不良が続き退職し、その後しばらくは退職金で生活をしていましたが、生活費も底をつき、Aさんの生活状況に不安を抱いていた次兄の協力にて、生活保護を受けることができました。

生活保護受給後の行政による定期訪問時、家の中は足の踏み場もなくアルコールの空瓶やお惣菜の空が散乱していて、行政の方が健康診断目的での病院受診を促しましたが、拒否が強く医療機関に繋ぐことができなかったそうです。

AさんがB病院へ救急搬送された時、内科的には異常所見はありませんでした。

ただ、診察中、「ヤクザに狙われている」「家にヤクザがいて帰れない」という言動があり、精神科受診が必要と判断され、当院に紹介されました。Aさんに付き添える身内はおらず、行政の方に伴われてやってきました。病態及び生活状況に破綻を呈していることから入院となりました。

入院直後から病状安定期 

入院時、痩せが目立ち、体力も低下しており歩行も困難な状態でした。半年間以上入浴しておらず、不潔な状態でした。Aさんと話をすると、拒否言動もなく、状態を見ながら入浴介助を行いました。入浴後はさっぱりしたようでAさんもホッとしていたようにうかがえました。入浴時の全身状態観察で右転子部の褥瘡と数箇所の擦り傷が見られました。食事も摂れず、ほほ寝たきりの悲惨な生活状況が見えるような感じがしました。

入院時の所持金で、最低限の日用品を一緒に確認しながら購入しました。徐々にスタッフの顔も覚え、警戒心も解け自分の要求を訴えるようになりました。空腹を訴えた時に、おやつを勢いよくバクバクと食べていたのがとても印象的で、Aさんの中にも安心感が生まれてきているように感じました。

少しずつ食事量も増え、栄養状態が改善し、一人で歩いてトイレに行けるようになりました。時々、歩行時のふらつきがありましたが、検査上異常はなく、主治医は、「長年の飲酒の影響と体力低下からの平衡感覚の異常のため」と診断しました。入院生活中、飲酒要求や問題行動もなく、生活していく上で、環境がいかに大事であるかを、改めて考えさせられました。

自宅訪問から施設入居まで 

歩行が安定した時点でAさんを含め、主治医、担当看護師、精神保健福祉士(以下PSW)と作業療法士(以下OT)、行政の担当者とで今後の方針を話し合い、まずはアパート訪問を実施しました。室内には空き缶・弁当の空き箱・食べ残しが散乱し、足の踏み場もない状態でした。着替えも衣類もほとんどなく、掛け毛布が1枚敷かれていましたが、その上にもゴミが散乱し、どのようにして眠っていたのか不思議な状態でした。通帳・印鑑があったため現金を引き出し、当面必要な衣類を購入し病院へ戻ってきました。

帰ってきたAさんにアパートについて聞くと「あんなにひどいとは思わなかったよ」と話していました。今後の生活を考えるために担当看護師と再度アパートへ行った際、Aさんが「このアパートにはもう住めない」と話したため、施設入居することに決めました。Aさんが再出発する気持ちになってくれたことを、応援していきたいと強く感じました。

病院に隣接している宿泊型自立訓練事業所を見学すると気にいった様子ですぐに体験外泊をすることになりました。一週間の体験外泊の結果、入居がスムーズに決定しました。入居に伴い、最後の私物確認のため再度のアパートを訪問した際、Aさんは「12年も住んだ所だから愛着はある」と静かに話していました。その時、昔の写真1枚も手にすることはなく、全ての物を処分する判断をしました。Aさんが今までの生活に終止符をうち、新たな一歩を踏み出す決意を感じました。

退院に向け、地域カンファレンスをAさん含め、主治医、担当看護師、多職種(PSW・OT)外来スタッフ、デイケアスタッフ、施設スタッフ、行政の担当者で開催しました。Aさんは、カンファレンスの場では終始無言で、緊張していた様子でしたが、最後に「よろしくお願いします」と深々と頭を下げていました。行政の担当者はAさんを見て、「入院時とは、身なりも表情も別人みたいです」と話していました。この時、行政の担当者とも情報交換しましたが、Aさんのような人達はまだまだいるということでした。医療機関と行政の連携強化、サポート体制づくりが重要であると感じました。

Aさんの心情の変化

最初は、「もうどうなってもいい。好きなようにしてくれ」との発言があり、全部に対して投げやりな印象がありました。何に対しても強い抵抗も示さず、こちらの介助をただ受け入れている状況でした。入院したことにより身体的にも精神的にも安定した為、日中活動の範囲も広がり作業療法に参加するなど自発的な行動が増えてきました。同時にスタッフや他患者との交流も増え、自然な笑顔も見られるようになりました。環境調整やさまざまな関わりを通して状態が安定し、Aさんの意欲が向上しました。Aさんが生きる力を取り戻したように見え、私達のやりがいにも繋がったと感じました。

Aさんの現在

病院周辺を散歩しているAさんは職員を見かけると、笑顔であいさつをしてくれます。入院時の状態からは想像がつかないほど回復していることを実感すると同時に、今回の入院はAさんからの「自分を助けてほしい」のメッセージでもあったように思います。

現代は、非正規雇用者も多く、実家にも戻れずに社会から疎外されている人、孤独死の可能性も大きい、そういう人が身近にいるということを強く感じました。また、行政との連携についても確認が必要だと思いました。これからもAさんを見守っていきたいと思います。

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